President Blogでじまる館長ブログ
WEBメディアのベンチャー組織化に失敗した僕が図書館をつくった話
2018年01月19日
実を言うと、僕は会社の組織化に自信があった。
4年前、独りで事業を立ち上げて、失敗だらけの中から少しだけど成功事例もつくってきた。新入社員にどんな質問をされても完璧に教えることができるはず。前職時代にチームをまとめる経験をさせてもらったのも、僕の自信のもとになっていた。
しかし、僕の初めての法人組織化は失敗した。
もちろん、一緒にがんばってくれる頼もしい仲間もできて成功した側面もある。しかし、2年弱で採用した社員の半分近くが離職してしまった結果を見れば、このまま進んでではいけないのは明白だろう。
面接で目を輝かせていた人が、申し訳なさそうに去っていく姿に慣れることは無いと思う。僕にとってはじめての社員採用だったので、スタッフの人生を預かるという気負いは特に大きかった。それだけに、うまく力を引き出してあげられなかったと、自分の無力さを痛感したのがこの一年だった。
この機会に、WEBメディア事業の組織化と戦略について考えてみたいと思う。
なぜ、組織化はうまくいかなかったのか
一言でいうと、社員の適材適所ができなかったのが主な理由だ。
自社のWEBメディア事業にどんな人材が適しているのか、基準が甘いまま採用活動を続けてミスマッチを起こしてしまっていた。基準を明確にできなかったのは、自社事業に対しての考察が浅かったためだ。
WEBメディアの企業でありながら、インターネットの中で起きている大きな潮流をわかっていなかった。いや、頭でわかってはいたが甘く見ていた、という方が正確かもしれない。
インターネットが「信用」を見える化させた
メディアが生き残る戦略を考えるとき、SNS・ブログ・Youtubeなどインターネットを通して個人の発信力が強まりメディア化しているのは、見過ごせない流れだ。
この流れのなかで「信用」が、これまで以上に重要な要素となっている。自社の発信力を高める以上に、信用してくれる仲間・つまりコアファンをつくり、メディア化した個人に応援してもらうことでより大きな影響力を持つことができるからだ。
もちろん、信用やコアファンがビジネスで大切なのは古くから言われていて新しい流れでもなんでもない。それでも、ここで強調したのは、インターネットによって個人の発信力が高まった結果、多数の個人メディアを通じて「信用」は見える化され、自社メディアの影響力にダイレクトに作用するからだ。
この潮流に則った社内外の仲間集めこそ、僕がやらないといけない組織化だった。
では、どうすれば信用を得て仲間を増やすことができるのだろうか。
メディアが信用を得る3つの条件
考えてみると、メディアが信用を得るためにできることはシンプルだ。僕の会社に足りなかったのは、大きく3つの条件かなと思う。
・公益性をもった共感できるストーリー
・リアル
コンテンツの質
僕の会社で言うところのコンテンツとは、企画・ライティング・編集を経た記事であり、いかに質を追究できる組織作りができるかが最重要になる。
記事の質を高めるために、未経験のスタッフが多かったのでマニュアルを整備し、ノウハウを共有していった。つまり、平均的なコンテンツの質を担保しようというものだった。
しかし、それだけでは不十分だった。もちろんノウハウを標準化するマニュアルは必要だが、マニュアルに沿った平均的なコンテンツを制作できればよい、というものではない。
記事を読んで、コアファンとして仲間になってくれる個人が重要になるWEBメディアにとって、平均的なコンテンツほど相性の悪いものはない。
どれだけ個々に向けて、狭く深く尖ったコンテンツを提供できるかがコアファン獲得のカギになる。
僕は、尖ったコンテンツをつくる環境をつくることができなかった。ライティングのルール整備と、ひたすら「書く」ことに追われてしまい、もっと大切な「企画」や磨き上げるための「編集」時間を、十分に確保できていなかった。
なぜそんな状況になったのだろうか。
結局は、会社が向かうべき方向と従業員が求めるもののミスマッチが主要因だろうと思う。これは求職者の責任ではなく、尖ったコンテンツを作るための力点の置き方を分かっておらず、採用段階でどんな人が適したコンテンツを作れるか適性基準を明確にできていなかった僕の責任だ。
つくることに没頭し、自分の作品にこだわり抜ける職人タイプの人がコンテンツ開発には向いていて、質を左右するという当たり前のことを痛感した。そういえば、前職の広告会社のクリエイティブ職になるための試験はよく練られていたな、と思い出したりもした。
スタジオ・ジブリのプロデューサー鈴木さんがインタビューのなかで、映画制作をはじめた初期に宮崎監督から「作品をつくるたびにスタッフを入れ替えないと成り立たない。共同作業のなかで関係が壊れてしまっているから」と言われた、という主旨の話をしていた。
これは極端かもしれないけれど、チームでコンテンツの質を追究してファンを増やすためには、ぶつかり合ってもこだわり抜くような適性が必要なのだろうと思う。
公益性をもった共感できるストーリー
このことに気づかせてくれたのは、2016年のキュレーションメディアの事件だった。
キュレーションメディアを運営する法人が、クラウドワーカーに依頼して他人の著作物を盗用編集し、信憑性の薄いコンテンツを量産していたという。当時、僕の会社のコンテンツも、引用元を示さず盗用と思われるような記事を展開されて、頭を抱えていた。
そのときは、他人の権利を侵害しながら自社の利益をあげる運営スタンスに、ひどく憤ったものだ。どうひいき目に見ても、自社含めた商流にいる人以外にとって価値のない活動だったと思う。
そこには、公益性のある共感できるストーリーは全くなかった。まるで、テレビゲームのように、効率的にクリアすることを然としたビジネスをつくりあげ、誰からも愛されていなかった。
どんな思いをもって会社がつくられ、社会にどんな価値を提供できるのか、ビジョンや理念にあたるものが重要になる。たとえ利益を上げていても、価値のないものを応援するファンはいないからだ。
公益性のある共感できるストーリーは、目指すべき北極星のようなもので、読者だけでなく社内スタッフの求心力にもなる。
リアル
これまで、TVの向こう側の存在だったアイドルに「会いにいける」という革命を起こし、大勢のコアファンを作り出したAKBについては誰もが知るところだろうと思う。
WEBの世界でも、人の温度感・つながりを感じる実体あるものが、より応援されやすいのは間違いない。
WEBメディアは作り手も読者も、一般的には相手の温度が感じられず関係が希薄になりがちで、信頼関係をつくってコアファンをつくるのには相当の時間と積み重ねが必要だからだ。
逆説的だが、WEBといういわばバーチャルな世界だからこそ、今後リアルなつながり、つまり実体を感じるかどうかが重要になる。
「ホワイトボックス図書館」構想
「コンテンツの質」「ストーリー」「リアル」この3つが、会社が向かうべき方向であり組織化の起点になると考えた。
そんな中、見えてきた道が「ホワイトボックス図書館」構想だ。
それは「死別再婚」というテーマを、パートナーの方に執筆頂いたときのことだ。編集会議で、協業パートナーの方が旦那様と死別し、再婚されているという経歴を話してくださった。時間が経ってようやく人に話せるまでになったという。
僕たちは、この方の貴重な経験を記事にすることにした。
上がった記事は、ご本人の苦しい過去の胸の内をつづったもので、経験した人しか語れないであろう、前を向くためのメッセージが込めれていた。ソーシャルで拡散し、同じ境遇に悩まれる方や雑誌社からもメッセージを頂いた。
WEBメディアの会社として、会社の特性を活かした意義ある実体を作るヒントだと思った。
ひとりひとりの人生の中には「本を書けるくらい価値あるテーマ」が眠っている、そしてその情報を必要としている人がいる。
そのふたつを、ホワイトボックスのWEB技術を活かしてつなぎ、結果として、情報発信した人をブランディングするお手伝いができないか。
「本を書けるくらいの価値あるテーマ」は大それたものでなくてもいい。あなたにとって当たり前の経験が、ある人にとっては喉から手が出るほど価値ある情報であることは十分にあり得る。人生の失敗から教訓を得る「しくじり先生」をイメージすると、わかりやすいかもしれない。
この記事自体も、僕が組織化の失敗から得たものを、同じ課題を抱える誰かの役に立てられればと願いをこめた、図書館のコンテンツでもある。
この構想は、「図書館」が本来持っている「知の共有」という機能を、デジタル技術で進化させた「新しい図書館のカタチ」の提案だ。それで「ホワイトボックス図書館」と名付けた。
ホワイトボックスが個人の情報発信にどう貢献できるのか、実績の話を少しだけしておくと、たとえばニベアの記事がある。facebook「いいね」が1万を超え、そのほかのSNSでもたくさん拡散された。最終的には、この記事を起点に小学館「女性セブン」において特集記事をつくるまでになった。
ほかにも、2.5万「いいね」がついた重曹の記事など多数のSNS拡散・SEOの実績がある。この知見を活かして、個人の情報発信とブランディングのお手伝いをしたいと考えている。
「ホワイトボックス図書館」は、WEBメディアであるだけでなく、弊社の施設を一般開放する実体をもった図書館でもある。
※現在はイベント時のみ一般開放。詳しくはホワイトボックス図書館へ
今月でホワイトボックス図書館を公開してから3ヶ月ほど経った。特に告知をしていないけれど、いろんな背景を持った方々数十名に執筆頂いていて手応えを感じている。
ちなみに、ホワイトボックスの企画・編集サポートはエントリー制にしてすべて無料で行っている。これは慈善事業というわけではなく、インターネットが信用を見える化した結果、入り口で採算を考えない方が大きなリターンを期待できるからだ。
たとえば、昨年末に行ったリクルート活動では、明らかに応募者の属性が変わった。多くが、図書館のコンセプトに賛同して応募してくださった方々で、採用の効率化という面ですでに利益を得ている。また、執筆する方のブランディングを本気で考えてお手伝いするので、執筆頂いた方は応援してくれる仲間になりやすい。自らホワイトボックス図書館の広報的に動いてくださっている方もいる。
僕はベンチャー組織化に失敗した。
だけど、図書館を活路として新しい道が少しづつ見えはじめた、というお話でした。
もしよろしければ、「ホワイトボックス図書館」のfacebookページに「いいね」してくれるとうれしいです。
ホワイトボックス図書館で、自身の経験・専門知識をコンテンツにし、セルフブランディングしたい方、こちらのフォームよりエントリーしてください。ホワイトボックスが、無料で企画・編集のお手伝いをします。
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プロフィール
江原 聡人(えはら あきと)
1980年 大阪生まれ熊本育ち
高校時代 近所の画家さんに師事して藝大日本画専攻目指すも不合格
1999年 代々木ゼミナール熊本校で浪人
2003年 九州大学工学部機械航空工学科を卒業
2004年 演劇が好きで舞台に立つも大根役者で裏方へ
2004年 ソウル延世大学へ交換留学(2度目の試験でやっと合格)
2006年 九州大学大学院工学府知能機械システム工学を卒業
2006年 上京し博報堂に就職。(制作を期待したが)営業・インタラクティブ職として勤務し、藝大出身の同期に羨望&嫉妬。在職中は、通信・自動車・アルコール・化粧品・食品メーカーなど、ブランディングからダイレクトマーケティングまでを担当。特に、統計予測モデル作成のデータとにらめっこの日々が独立後の礎となる(⇒ホワイトボックス社名に込めた思い)
2014年 退社し東京で株式会社ホワイトボックスを設立
2015年 本社を福岡に移転
2018年 ホワイトボックス図書館館長に就任
モットー:やらない後悔よりやる後悔
語学:TOEIC850点、韓国語(ビジネス)
資格:薬事法管理者、美容薬学検定一級、化粧品検定一級
好きなスポーツ:バレーボール、データサイエンス
趣味:サスペンス映画の序盤でオチを予想すること
twitter:@でじまる館長
facebook:akito.ehara