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President Blog社長ブログ

初めてのベンチャー組織化で、僕はトイレ掃除の価値を再認識した

2017年03月05日

「立派なオフィスを構えた途端、倒産する企業が多いんですよね」

4年前、税理士さんが僕に言った言葉だ。お金の使い方を勘違いしちゃう起業家が多いんですよ、というニュアンスに、バカだなぁと笑っていた。この他人事が、自分に突き刺さる言葉になるとは、当時は思いもしなかった。

1年前、僕はなけなしのお金を一風変わったオフィスにつぎ込んだ。福岡市天神ど真ん中、こだわり抜いてつくった内装、高い買い物だったけど、ここからはじまる計画にワクワクしていた。

このサイトも事業拡張の核になる、その確信で相当の費用をかけた。すべては会社を組織化して、事業計画を実行するための投資だった。

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150人を超える採用応募者

2016年4月、はじめて社員募集の広告を出した。広告からレスポンスを取るのは専門だけど、はじめて社員集めます、みたいな「ドベンチャー」で働きたいと思ってくれる人がどれだけいるのかは甚だ疑問だった。

ただ、結果から言えば、応募者を集める段階は大成功だった。3週間ほどの広告掲出で、150人以上の応募者があったのは広告担当者も驚いていた。「代表のストーリーを売る」以外に方法がないと思っていたので、そこに特化したのが良かったのかもしれない。

ふくらむ違和感の正体

選考を本格化しはじめた2016年5月、僕は言いようのない違和感と戦っていた。いま思うと、この違和感はふたつの要素からできていたのだと思う。

ひとつ目は、2015年の年末からの組織化のために費やした自分の時間配分だった。ひとりで事業を回すときには、徹底して自分の時給を意識して、収益に直結するプロフィットセンター(収益追求)としての業務に集中することができた。

しかし、人を増やそうとしたときの準備含める管理コストは、想像を超えるレベルで僕の時間を奪い、会社はプロフィットセンターを失い、選考が佳境に入る頃にはコストセンター(支出部門)だけになっていくのが分かった。

結果、収益を下げながらコストを増やすという、営利団体としては何をやっているのかわからない状態に苦しんだ。もちろんこれは、先行投資と割り切っていたので、心の準備はしていた。それでも、僕の心はザワついた。

ふたつ目は、採用応募者の考えだった。僕はお金と時間を投資して、未来の組織に希望を抱いていた。だから、ひとつ目の違和感の前に根本で気持ちが揺らぐことはなかった。だけど、それは良い人材を採用できる前提があるからだ。

良い人材とはなんなのだろう。応募者の志望動機の多くには、こんなことが書いてあった。

成長できそうなので応募しました。
自分の力を試したくて応募しました。

成長したいという思いをもった志望動機、もちろんこれらは全く悪いことではない。しかし、これを見たときの違和感は、僕がこれまでやってきたことの根本を揺さぶり、先の税理士さんの言葉を思い出させた。

「立派なオフィスを構えた途端、倒産する企業が多いんですよね」

危機感と共に、僕は一人の後輩のことを思い出していた。

島崎という男

8年前、広告会社で働く僕の下に新卒が入ってきた。ここでは、名前を島崎とする。

僕にとって初めての同じラインの後輩だった。島崎は誰もがうらやむ学歴の持ち主である一方で、かわいげのあるいいヤツだった。僕は仕事という名の作業を、ドヤ顔で島崎に教えた。

内容はグラフィックの制作進行だが、大きなクライアントさんの案件だったので数は膨大だった。100を超えるグラフィックの初稿、提案、修正、提案、、、下版、印刷、掲出確認をミスなく繰り返すこと。

この作業を共有できる喜びと、人に教える立場になった優越感で僕はカタルシスを覚えていた。昼の時間だけでは仕事をこなせなかった僕らは、よく一緒に徹夜をした。

「兄弟がほしいと思ったことはないですね、一人っ子は親の全ての投資を一身に受けられるから」

なんてことを島崎は得意気に言っていたが、仕事の要領をつかむと彼が受け身になることは一切なかった。

「仕事を管理するエクセルフォーマットつくっておきました」
「30個のロゴレギュレーションは昨日のうちに僕がチェックしてます」
「掲出先のメディアの仕様を一覧化しましたが合ってますか?」

などなど、島崎のお陰で僕は本当に仕事が楽になった。一方で島崎がしたような仕事の価値は、なかなか日の目を見ることはない。島崎の工夫があったからこそ間に合った入稿物たちは、全国のメディアに掲載され、クリエイターの名を上げることに一役を買ったことは、僕を含め一緒にいたわずかな人しか知らない。

それでも島崎はいつも笑顔だった。一度、島崎に聞いたことがある。

「お前の仕事のモチベーションってなんなの?」

「僕は役に立つならなんでもいいんです。
トイレ掃除でもなんでも、精一杯やりますよ。」

当時は、オレは仕事にやりがいも求めるけどね、くらいの事を返した気がする。
けど、今ならわかる。

彼は仕事ができる、だけでなく僕なんかよりずっと「サービスのプロ」だったのだ。どんな環境でも、与えることを考えて動くことができる。彼はきっと、日の目の当たりにくいトイレ掃除のような仕事でも、同じようにサービスのプロとして仕事できるのだろう。

サービスを提供する側なのか、受ける側なのか

僕の採用応募者に対する違和感の正体は、このサービスに対する姿勢だった。組織化の準備で、新入社員のPCからはじまり、労務・税務・評価システム・研修資料から人材育成計画の準備含め、時とお金を投資してきた僕は、独りで与え続けることの限界を感じていた。

もし、社風を決めるこのタイミングで、すべての仕事が与えられることを前提に、サービスを受けるスタンスの社員が増えたら、間違いなく会社は傾くと思った。

能力とか賢さ以前に、ベンチャーで貢献意識がない人を採用するのは非常にリスクだ。もちろんこれは、社員の労働力を会社として搾取したいとかそういった話ではない。

会社を立ち上げるタイミングでは、受け身の社員に与えられるものなんてなかなか無い。大企業では当たり前の福利厚生がないことだって珍しくない。日の目を見ない仕事だってたくさんあるだろう。けれど、僕を含め社員みんなが貢献を持ち寄って組織をつくり、社外にサービスを提供しなければ、スタートラインに立てないということだ。

これはベンチャーの厳しさであり、自分の貢献がダイレクトに会社に反映される面白さでもある。力と意欲がある人には、どんどん活躍の場を提供することができるのだ。

この厳しさと面白さを理解し、主体的に動ける人でないと一緒に働き続けるのは難しいだろうと思う。ブログにこのテーマを書こうと思ったのは、今後の採用活動でミスマッチを防ぎたいという理由もある。

———–

そんなこんなで採用を続け、2016年は7人の社員が増えた。たしかに、ベンチャー企業が社員に与えられるものは少ないかもしれない。一方で、僕は大企業ではなかなか手に入らないものを社員に提供している自負がある。

それは、会社員から独りで起業し組織化を進めている僕自身の経験だ。たくさん考えてたくさん失敗して、すこしの成功を大切に育ててきた。

採用から半年間、そんな自分の経験を棚卸しして毎日社員研修をおこなった。社会を生きていく上で僕が知っておきたかったこと、これから重要になるであろうスキルを精一杯教えてきたつもりだ。

もちろん、サービスのプロとして仕事に向かう姿勢を盛り込んで。

ホワイトボックスは3周年を迎えた

2017年2月28日、ホワイトボックスは3回目の誕生日を迎えた。この日の夜、僕は誰もいないオフィスを見渡しながら感慨にふけっていた。月並みだけど、振り返るとホントにあっという間だった。

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3年前、僕は一日中スタバで狂ったようにPCと向き合っていた。とにかく事業を軌道に乗せるために、一人で作業に没頭していた。

2年前、僕はコワーキングスペースの片隅で机ひとつ間借りしていた。作業するだけの限界に気づいて、積極的に人に会うようになっていた。

1年前、僕はオフィスを構えて組織化を本気でスタートさせた。

いま、静かにオフィスを見渡して、3年間のことが思い出された。目に見える形で残ったのは、このオフィスと5名の仲間だ。その陰には、日の目を見ないトイレ掃除のようなたくさんの投資があった。

そして、昨日3月4日は僕の誕生日だった。社員みんながサプライズで真心を込めたお祝いをしてくれた。

うれしい、と同時に頼もしいと感じた。

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今年は、大きく事業を舵切りしようとしている。きっとついてくる社員も大変だと思うけど、一緒にワクワクしてくれるんじゃないかと思っている。

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プロフィール

江原 聡人(えはら あきと)

1980年生まれ
九州大学工学部機械航空工学科、九州大学大学院工学府知能機械システム工学を卒業。
在学中2004年にソウル延世大学へ交換留学。
2006年より上京し博報堂にて営業・インタラクティブ職として勤務。
在職中は、通信・自動車・アルコール・化粧品・食品メーカーなど、ブランディングからダイレクトマーケティングまでを担当。
2014年に退社し、株式会社ホワイトボックスを設立。

趣味:旅行、観劇、映画鑑賞